こんにちは、弁護士の内堀です。
 平成29年5月14日(日)、北九州芸術劇場にて、ジョン・ケアード演出、内野聖陽主演の舞台「ハムレット」を観てきました。
 さて、ハムレットといえば、to be or not to be、 that is the question(生きるか死ぬか、それが問題だ)というセリフが有名ですが、ストーリーを知らない人というのは意外に多いのではないでしょうか。私も少し前までは全く知りませんでした。
 あらすじはこうです。デンマーク王が急死したのち、王の弟クローディアスは王妃ガートルードと結婚し、王座に就きます。悲しみに暮れるデンマーク王子ハムレットは、ある日、父の亡霊を目撃し、亡霊から、父の死はクローディアスの毒殺によるものと告げられます。ハムレットは、おじのクローディアスに対する復讐を誓い、(なぜか)気が狂ったふりをします。そうこうしているうちに、恋人オフィーリアの父であり、王の側近であるポローニアスを王と間違えてナイフで刺し殺してしまいます。そのせいでオフィーリアは気が狂い、川で溺れて死にます。クローディアスはハムレットにイングランドへの外遊を命じ、ローゼンクランツとギルデンスターンを供につけます。そして、ハムレットの殺害を指示するイングランド王宛ての手紙を二人に預けますが、ハムレットは手紙を見つけ出し、ローゼンクランツとギルデンスターンを殺させるように書き換えます。船が海賊に襲撃されたのを利用して、ハムレットはデンマークに舞い戻りますが、ローゼンクランツとギルデンスターンはその後イングランド王により殺されてしまいます。オフィーリアの兄レアティーズは怒りに燃え、父ポローニアスの仇を打つことを決意します。クローディアスは、レアティーズを利用してハムレットを殺害することを企て、ハムレットとレアティーズの剣術試合を開催します。レアティーズは毒剣を、クローディアスは毒入りの酒を用意し、互いに協力してハムレットを殺そうとします。しかし、用意された毒酒を王妃が誤って飲んで死にます。ハムレットは毒剣で切り付けられ傷を負い、その後毒剣をハムレットが奪い、レアティーズを切り付けます。最後にハムレットはクローディアスを刺し殺し、復讐を果たしますが、レアティーズ同様、自分も毒に侵されて息絶えます。
 このように、最後には主要登場人物がみな死んでしまうという、まさに悲劇的な結末を迎えるのですが、この舞台を観ていて、ふと考えました。現代の日本でこのような事件が起こった場合、誰がどのような犯罪に問われるだろうと。登場人物も多く、やや難しい話になりますが、以下では、ハムレットを(無理矢理)刑法学的に考察していきたいと思います。
 まず、クローディアスの先王に対する殺人罪、ハムレットのクローディアスに対する殺人罪、レアティーズのハムレットに対する殺人罪が成立することは明らかです。
 時系列に沿って検討することにします。まず、ハムレットがクローディアスと思って刺し殺した相手はポローニアスでした。この点は、人違いではありますが、人を刺し殺すつもりでやはり人を死なせているので、殺人の故意が認められ、殺人罪が成立します。
 ハムレットはクローディアスが書いた手紙を書き換えることでイングランド王にローゼンクランツとギルデンスターンを殺させています。この点について、殺人を実行しているのはイングランド王であり、ハムレットはこれをそそのかしているので、殺人罪の教唆犯となるでしょう。
 王妃ガートルードはクローディアスの用意した毒入り酒を飲んで死にましたが、クローディアスはあくまでハムレットだけを殺すつもりでした。クローディアスに殺人罪は成立するのでしょうか。先ほど述べたように、人違いではあっても、人を殺すつもりで毒入り酒を用意し、やはり人を死なせているので、殺人罪は成立します。また、この点については、レアティーズとクローディアスに共謀が認められるので、レアティーズも殺人罪の共同正犯としての罪責を負います。逆にクローディアスには、レアティーズがハムレットを毒剣で切り付け殺したことについて共同正犯として殺人罪の罪責を負います。
 レアティーズの死について、ハムレットはどのような責任を負うのでしょうか。ハムレットがレアティーズを切り付けた時点では、ハムレットは剣に毒が塗ってあることを知りませんでした。また、私の見る限り、ハムレットは背中を切り付けていましたので、傷害の故意があるだけです。それでは、ハムレットに傷害致死罪が成立するでしょうか。ハムレットの刺傷行為とレアティーズの死との間に、因果関係があるかが問題になります。因果関係の判断は行為時に認識し又は認識することができた事情のみを基礎とするという通説的考え方からすれば、ハムレットが行為時に認識していなかった「剣に毒が塗ってある」という事実を因果関係判断の基礎にすることはできません。すなわち、毒の塗っていない剣で背中を切り付けることから死の結果が生じることが相当かどうかを判断することになります。結論として、背中を切り付けるという行為は、人の命を奪うほどの危険性はないと思われるので、ハムレットには傷害罪が成立するに過ぎないと考えられます。
 これまで長々と検討してきましたが、結局のところ、被疑者は全員死亡していますので、書類送検後、全員不起訴になるでしょう。
 これを読んでも「ハムレット」がさっぱり分からなかったという方は、是非劇場でご覧になることをお勧めします。
 最後に、なぜ私が「ハムレット」を観たかというと、実は私の妹・内堀律子が出演していたからでした。まだまだ無名の役者ではありますが、引き続き兄として応援していきたいです。