年少者でも大きな事故を起こすことがあります

小学生くらいの子どもが自転車に乗ったり,野球やサッカーなどのスポーツを楽しむのは,ごく普通の光景です。元気に走り回っている姿は清々しく,将来の成長が楽しみに思われるものです。

しかし,子どもたちのそのような楽しい光景を瞬時にして暗転させるような事故が起こることもあります。例えば自転車やボールなどが,人を傷つける凶器となってしまうことがあるのです。
 

そのような場合,親の責任が問題となることがあります

小学生くらいの子どもが起こした事故については,法的には親(親権者)の責任が問われることがよくあります。民法714条には,「…責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は,その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」との規定があり,小学生は通常,「責任無能力者」とされるからです。
 

自転車事故で約9500万円の賠償を命ずる判決が出ました

このような子どもの事故について,最近特に話題になったのが,神戸地方裁判所で平成25年7月4日に出された,自転車事故に関する,約9500万円の賠償を命ずる判決でしょう。

小学5年生の少年が運転する自転車(マウンテンバイク)に,60歳代の女性がはね飛ばされて重傷を負い,いわゆる植物状態に陥ってしまったという事案です。

神戸地裁は,①自転車が坂道を時速20ないし30㎞程度の速い速度で進行していたことや,②自転車が前方を注視して交通安全を図るべき基本的な注意義務を尽くさなかったことを指摘し,そこから母親が少年に自転車の運転に関する十分な指導や注意をしていなかったとして,母親の監督義務責任を認めたのです。

そして,慰謝料・逸失利益・将来の介護費用等を含めて,被害者の損害額は約9500万円になるとしたのです。
 

親の責任を否定する最高裁判決が出ました

この神戸地裁判決以外にも,最近は子どもの事故について親権者の責任を認定し,高額な賠償を命じる裁判例が多く出ていました。

そのような情勢の中で平成27年4月9日,最高裁の1つの判断が示されました。

事案は,小学6年生の少年が校庭でサッカーをして遊んでいたところ,フリーキックの練習中,ゴールに向けて蹴ったボールが学校の門扉を越えて道路に転がり出て,バイクを運転していた高齢男性(当時85歳)がそのボールを避けようとして転倒して負傷し,その後死亡したというものでした。

被害者遺族が少年の親権者に賠償を請求して提訴し,主要な争点は,親権者らが少年に対する監督義務を怠らなかったかどうかということでした。原審(大阪高裁)は,「本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴ることはその後方にある本件道路に向けて蹴ることになり,蹴り方次第ではボールが本件道路に飛び出す危険性がある」として,少年の親権者らには「このような場所では周囲に危険が及ぶような行為をしないよう指導する義務,すなわちそもそも本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴らないよう指導する監督義務があ」るとして,親権者らの賠償責任を肯定しました。

少年の親権者らが上告したところ,最高裁は,「本件ゴールに向けたフリーキックの練習は,…通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない」,「親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。」などとして,親権者らの賠償責任を否定したのです。
 

この判決の意義

この最高裁判決は,子どもに対する親権者の責任範囲について一定の指針を示し,無限定に広がることを防ぐ点で,有意義で評価されるべき判断ではないかと私は思います。

「通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない」というのは重要なポイントでしょう。

子どもの遊戯中の事故に関する最高裁判例には,鬼ごっこ中の傷害に関するものがあります(昭和37年2月27日判決)。小学校2年生の児童Aが鬼ごっこ中に,1年生の児童Bに背負われて逃げようとしたところ,過ってBを転倒させて右上腕骨骨折の負傷を与えたというケースで,傷害行為には違法性がないと認定したものです。

最高裁は,鬼ごっこが一般に容認される遊戯であること,Aは鬼役に追いつかれそうになったので逃げるため,Bの同意を得て背負ってもらおうとしたといった事情を重視しています。一般に認められた遊戯であること,通常の遊び方をしていたこと等,今回のサッカーの事案と共通する点が多く見られるように思われます。
(泉本)