平均寿命とは

以前のブログで,昭和40年の男性の平均寿命がほぼ67歳であったとお話しました(逸失利益(3)-労働能力の「喪失年数」をめぐる問題-より)。今回は少し,交通事故そのものの話題を離れて,この平均寿命・平均余命ということについてお話します。

日本人の平均寿命は何歳というときの,「平均寿命」というのは,ゼロ歳児の平均余命,つまりその年に生まれた赤ちゃんが平均して何年生きられるかという数値のことです。

 

平均余命の算出方法

では,この平均寿命ないし平均余命は,どのようにして算出するのでしょうか。厚生労働省のホームページをみると,「⑴人口と死亡数から年齢別の死亡率を計算。ただし,1歳未満は区分を細かくして計算。 ⑵⑴をもとに,生存率,生存数,死亡数,死力(完全生命表のみ),定常人口,平均余命等の生命関数を計算。ただし,1歳未満は区分を細かくして計算。」とされています。ある年に亡くなった人の年齢を足して死亡者数で割るといった,単純なものではありません。

 

寿命は延びたか?

よく,「最近は寿命が長くなった」とか,「昔は「人生50年」であったのが,今や「人生100年」になった」といった表現を耳にします。では,本当に現代人の寿命は,昔と比べて大幅に延びた(極端に言えば「倍になった」)といえるのでしょうか。

確かに,統計を見るとわが国の明治・大正・昭和初期といった時代には,「平均寿命」が50歳にも満たなかったことが分かります。しかしながらよく見ると,その頃には0歳からの平均余命と20歳からの平均余命がほとんど変わらないのです。例えば,日露戦争の少し前の明治32年から36年では,0歳からの平均余命は男性43.97年・女性44.85年,20歳からではそれぞれ40.35年・41.06 年でした。大正時代や昭和初期も大体同じような数値が続きます。

昔は幼少期の死亡が多かったため,このような結果になっているのです。決して今の半分の寿命ということではありません。成人すれば半分以上の確率で還暦は迎えられるといった感覚でしょうか。さらに,40歳からの平均余命は男女それぞれ26.03年・28.19年となっていますから,中年まで無事に過ごせれば,70歳もそう難しくなかったように思えます。

平成22年では,0歳からの平均余命は男女それぞれ79.55歳・86.30歳であり,戦前の約2倍にもなっています。でも,20歳からのそれは59.99歳・66.67歳,40歳からでは40.73歳・47.08歳ですから,青壮年者の伸びはそれほど大きくなりません。特に男性の場合20年も延びていないことになります。

このように考えてみると,昔と比較して全体的に長生きしやすくなったのは事実でしょうが,こと成人に関する限り平均寿命が倍になったというほどのことはないようです。実質的な延びは10年か20年といったところでしょうか。

 

現代の話?いいえ,紀元前です!

人の年齢に関して言えば,紀元前の中国で書かれた『礼記』という書物(儒学の古典「五経」の1つです)に次のようなくだりがあります。

「人生まれて十年を幼と曰ひ,学ぶ。二十を弱と曰ひ,冠す。三十を壮と曰ひ,室有り。四十を強と曰ひ,仕ふ。五十を艾と曰ひ,官政に服す。六十を耆と曰ひ,指し使ふ。七十を老と曰ひ,傳ふ。」

10歳で教育を受け,20歳で成人,30歳で結婚適齢期,40歳で国政に参加,50歳で政治の枢要なポストに就き,60歳で長の立場になり,70歳で後進に道を譲るのだというのです。そして20歳はまだまだ力のない若造(「弱」),30歳・40歳が働き盛り(「壮」「強」),50歳で熟年(「艾」は白髪交じり),60歳で円熟した年配者(「耆」は,「嗜」とも関係の深い字で,たしなみのある,人生の深いところまでわかった年配者といった意味合いのようです)といった感覚です。

当時のインテリ層の男性を対象とした話でしょうが,年齢感覚は現代とほとんど差がないように思えます。ちなみにこの礼記のくだりは100歳まで書かれてあります。こうして見てくると,どうやら人間の本当のところの寿命というものは,昔からそれほど変わっていないのかも知れません。