交通事故事案における逸失利益とは

交通事故事案における「逸失利益」が基本的には,

(基礎収入)×(労働能力喪失率)×(喪失年数)

という式で計算されること,労働能力喪失率が後遺障害の等級に応じて定められていることは,以前ブログでお話しした通りです。詳しくは,「逸失利益」⑴,⑵をご覧ください。

 

労働能力喪失率=収入減少率ではありません

それでは,現実問題として労働能力喪失率=収入減少率であるかといえば,決してそんなことはありません。例えば,年収500万円の人が後遺障害12級(労働能力喪失率14%)相当の後遺症を負ったからといって,年収が430万円になるということはまずありません。

仕事によっては,従来通りの仕事・収入を維持できる場合もあります。逆に,不幸なことに職業生命を絶たれてしまうこともあるかもしれません。

 

問題となるのは収入の減少があまりない場合です

事故のために後遺症を残す結果となっても,仕事・収入を維持できるということは,一般的には不幸中の幸いとでもいうべきことでしょう。

しかし,そのような場合,相手方保険会社からは,「逸失利益は認められません!」といわれてしまうことが少なくありません。訴訟となった場合,相手方代理人は徹底的に逸失利益を争ってくるでしょう。

被害者の方にとってはこれほどひどい話もないように思われるでしょうが,このような扱いには,理由があるのです。最高裁判所はかつて,「交通事故により…労働能力が減少しても,被害者が,その後従来どおり会社に勤務して作業に従事し,労働能力の減少によって格別の収入減を生じていないときは,被害者は,労働能力減少による損害賠償を請求することができない。」と,逸失利益=収入減少とも取れるような判決を出したのです(昭和42年11月10日判決)。
 

異論や修正はたくさんあります

しかしながら,このような考え方を貫くことには違和感を覚える方も多いのではないでしょうか。人間はそもそもお金を生む機械ではありません。また,ご本人の大変な努力や同僚のカヴァーによって何とか以前と同水準の仕事を維持している方もおられるでしょう。今のところ収入減はないものの将来の昇進が見込めなくなってしまった方もおられるでしょう。そういったことは,事故により失われてしまった利益と評価されえないのでしょうか?

この問題は,地裁・高裁の裁判例や法律学者の間ではかなり議論され,最高裁の昭和42年判決に対する異論は少なくありません。「事故の後遺症により被害者の労働能力が低下している場合には,その低下した労働能力が従事している職種に関連をもつものである限り,通常は労働能力低下による財産的損害が発生しているものというべきであり,事故前後の収入の差額等は右損害を評価するうえでの事情に過ぎないと解する」とまで言い切った地裁判決もあります。

最高裁も後に,逸失利益=収入減少という図式を修正し,被害者の後遺症の程度が軽微であって,その職業の性質から現在または将来の収入の減少も認められない場合であっても,逸失利益を肯定する余地を認めるようになっています。例えば,①収入減のないことが,本人が特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づく場合とか,②職業の性質に照らして特に昇給,昇任,転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合などに逸失利益を認める余地ありとされています(昭和56年12月22日判決)。この判例に関しては,後遺症が重大な場合には現在の減収の有無とは無関係に,逸失利益を肯定しうると評釈している学者もおられるようです。
 

収入減だけが逸失利益ではありません

当事務所では,等級相当の逸失利益が認められたケースはいくつもあります。例えば,肩関節の可動域制限や痛みの残った方のケースでは,重い書類の持ち運びが困難になり,疲れ易くなって仕事の効率が低下し,残業が増えたといった事情を主張し,等級相当の喪失率(11級・20%)に基づく逸失利益が認められました。

私個人としては,事故の後遺症により何らかの能力が減少し,将来の可能性が狭められてしまうこと自体が,逸失利益といえるのではないかと考えています。

収入減がない(少ない)ために逸失利益の有無が問題となった事案においては,依頼者様の努力や将来における不利益のおそれなどを徹底的に主張・立証してまいります。